産地の移り変わりに合わせた蕎麦粉の使い分け
9月、北海道のきたわせ蕎麦から新蕎麦の季節が始まる。蕎麦 じきさいでは、その年ごとの出来を見ながら仕入れ先を切り替えており、11月から12月にかけては茨城県産や福井県産へと移行していく。届いた蕎麦粉は店内で手挽きし、そのまま手打ちへ。細切りに仕上げた麺は鼻に抜ける香りが鮮烈で、つけ汁への絡みと喉越しの軽さが両立している。
個人的には、産地によって同じ細切りでも風味の輪郭がまるで違う点が印象的だった。北海道産は甘みが先に立ち、福井県産はやや野趣のある香りが残る。こうした違いを「何杯でもいける軽さ」に落とし込んでいるのは、挽き加減と打ち方の微調整があってこそだろう。蕎麦粉の状態を見極める判断が、一杯ごとの仕上がりに直結している。
自家栽培の野菜が支える一品料理の幅
蕎麦 じきさいの畑では長ネギや大根、春菊、ごぼうなど季節ごとの野菜を栽培しており、収穫した素材が薬味や天ぷら、筑前煮といった料理にそのまま使われている。春菊・玉ねぎ・人参・小エビを合わせたかき揚げは、野菜の甘みが衣の中でしっかり残っていて、蕎麦の合間に箸が伸びる一品。鴨せいろに添えるネギも自家栽培で、鴨肉と一緒に焼き上げることで脂がネギに移り、つけ汁全体の旨味を底上げしている。
「鴨せいろのネギが甘くて驚いた」という声は口コミでも目立つ。鴨の脂で焼かれたネギは表面が軽く焦げて香ばしく、噛むと中からじわっと甘みが出てくる。ざる蕎麦、豚せいろ、かき揚げせいろと温かいつけ汁系のメニューが複数そろっており、冷たいつけ汁との食べ比べを楽しむ常連客もいるという。
カウンターから眺める手打ちの工程
南側に配置された厨房に面したカウンター席では、蕎麦粉を挽くところから打ち、切り、茹でるまでの一連の作業が目の前で進んでいく。一人客がふらりと立ち寄れる気安さがあり、職人の手元を眺めているうちに注文した蕎麦が運ばれてくるテンポ感も心地いい。北側の窓際テーブル席は自然光が入り、家族連れや観光客がゆったり過ごせる配置になっている。全席禁煙で、木を基調にした内装が落ち着いた空気をつくっている。
開店時間に合わせて訪れた昼どき、カウンターに座った年配の男性が「ここは打っているところを見るのが楽しい」と隣の客に話しかけていた。手打ちの工程を見ながら食べると、同じ一杯でも味の解像度が変わるという感覚は、実際に座ってみないと分からないかもしれない。席数は多くないが、その分だけ店内は静かで、蕎麦をすする音がよく通る。
伊部駅徒歩5分、備前観光の合間に立ち寄れる場所
旧道沿いという立地が、窯元巡りや美術館の行き帰りにちょうどいい。伊部駅から歩いて約5分、駐車場も備えているため車での来店にも対応している。備前焼の里を散策する途中で蕎麦を手繰る、という流れで訪れる観光客は少なくないようだ。
「備前に来たら必ず寄る」というリピーターの投稿がいくつか見られ、観光と食事をセットで考える人に選ばれている印象を受ける。周辺の陶芸ギャラリーを回った後、細切りの冷たい蕎麦で口の中をすっきりさせるのは、なかなか贅沢な使い方だと思う。営業日や時間帯は事前に確認しておくのが無難だろう。


-120x68.png)