焼き台の炎が調理の中心に立つ
薪火 嘉多妻の扉を開けてまず目に入るのは、店の奥で赤々と燃える大きな焼き台だ。ここで楢や樫の薪をくべ、鳥取万葉牛や種子島梶屋牛といった和牛にゆっくりと火を入れていく。カウンター席に腰を下ろせば、パチパチと鳴る火の音を聞きながら、肉が焼き上がるまでの時間そのものを眺められる。薪特有の香りが素材にうつり、旨味と香ばしさが一皿の上で重なり合う。
和牛ばかりが主役というわけでもない。全国の漁師から直送される魚も柱のひとつで、朝獲れの鮮魚がそのまま同じ焼き台へと運ばれていく。肉と魚、性質の違う素材に同じ薪火を通すことで、コース全体に共通した香りの軸が生まれる。正直なところ、同じ火から仕上げているのに素材ごとで表情がここまで変わるのかと、見ていて飽きなかった。
店主が組み立てるおまかせの流れ
提供されるのはおまかせのコース仕立てで、その日の素材を見ながら店主が構成を決めていく。肉を軸に置きつつ、魚や蒸し物、揚げ物まで差し込まれ、食べ進むほどに印象が移っていく組み立てだ。業界歴は10年以上。長く和食と向き合ってきた経験から、一皿の押し引きや休ませどころの取り方に迷いがない。
その日の仕入れによって内容が動くため、同じ時期でも卓に並ぶ品は一度ごとに違う。旬の食材をコースに組み込み、素材が持ち味を出す火加減を店主が見極めていく。最後の一品まで重さが残らないよう、品数と全体の分量にも手が入っている。献立が固定されていないぶん、何度足を運んでも新しい一皿に出会える。
料理に寄せて選ぶ15種類以上の酒
お酒の選び方も、薪火 嘉多妻での夜を形づくる大きな要素になる。日本酒や甲州ワイン、ウィスキー、焼酎まで常時15種類以上がそろい、その日のコースと客の好みに合わせて一杯を提案してくれる。山梨県大月市の長谷部酒店が手がける甲州ワインも並んでおり、薪で焼いた和牛に合わせたときのふくらみは一度味わってほしい。定番の銘柄だけでなく期間限定の品が加わることもあり、通うたびに違う組み合わせに出会える。
お酒をゆっくり楽しみたい人にも向いている。料理のペースに合わせて一杯ずつ選べるため、コースの進行と歩調をそろえながら飲み進められる。甲州ワインは山梨の土地で育ったぶどうから生まれており、和食のやわらかな風味とも素直に重なる。
自由が丘で過ごす静かな夜のために
店は東京都目黒区自由が丘1-3-22のTKビル2階にある。最寄り駅から歩いて4分ほどと近く、電車で向かう人も負担が少ない。木の温もりを残した白基調の空間はカウンターを中心とした造りで、焼き台の炎を視界に入れながら食事に集中できる。
営業は17時から23時まで、月曜日が定休にあたる。来店は完全予約制で、席は食べログから事前に押さえてから向かう流れになる。支払いは現金とクレジットカードに対応し、好みのワインや日本酒を持ち込みたい場合は抜栓料を払えば受け付けてもらえる。

