注文を受けてから精米する、浅草の米屋の流儀
農家から直接届いた玄米を、購入のたびに店頭で精米するというスタイルを亀屋酒店は守り続けている。精米直後の米は水分量が豊富で、炊き上がりの香りや艶が格段に違う。取り扱うのは単一産地・単一生産者の銘柄に限定しており、それぞれの田んぼや作り手ごとの味の違いをそのまま届けるための仕組みだ。明治時代から続く御用聞きの伝統を背景に、食卓の主役である米に対する姿勢がぶれていない。
個人的には、「精米したての米はここまで違うのか」という驚きが一番印象的だった。ふっくらと炊けた米の粘りや甘みは、スーパーで買う精米済みの袋詰めとは明らかに別物で、常連客の中には月に何度も買いに来る人もいるという。玄米の状態で保管し、都度精米するため酸化が進みにくく、風味の劣化を最小限に抑えられる。こうした鮮度管理の徹底ぶりが、リピーターの多さに直結している。
100年超の倉庫を改装した木と白の空間
80年以上にわたって家族で受け継がれてきた亀屋酒店は、築100年を超える倉庫をリノベーションして現在の店舗に仕立てた。木材と白を基調にした内装は清潔感があり、古い建物の骨格を活かしたデザインが独特の雰囲気を生んでいる。4代目の店主がリニューアルを手がけ、角打ちスペースを新設。カウンター席とテラス席を備え、一人でふらりと立ち寄れる場所になった。
女性客やお子様連れの来店が増えているという声が目立つ。無添加の食材を使った料理やジュースも用意されており、お酒を飲まない人でも気兼ねなく過ごせる。浅草という土地柄、観光途中に立ち寄る人も少なくないが、地元の常連が日常的に集まるコミュニティとしての側面が強い。入口をくぐると倉庫だった頃の梁や柱がそのまま残っていて、新旧の時間が同居する空間になっている。
福島の蔵元からクラフトミードまで、店主が選んだ一本
福島県・仁井田本家の特約店として自然派の日本酒を揃えつつ、国産クラフトビールやクラフトミードといった変わり種も棚に並ぶ。クラフトミードは蜂蜜を原料とする世界最古の酒のひとつで、酒屋の店頭で出会える機会はかなり珍しい。にごり酒をベースにしたレモンサワーなど、定番の枠に収まらないアレンジメニューも角打ちで提供している。国産の酒を軸に据えているため、産地や原材料の出どころが明確な銘柄が中心だ。
たとえば「日本酒は苦手だけど何か飲んでみたい」という来店客には、店主がその場で好みを聞きながら一本を選んでくれる。作り手の背景やエピソードまで添えて説明してくれるので、ラベルだけでは分からない情報が手に入る。国産ワインやにごり酒など選択肢の幅は広く、酒好きが「これは初めて見た」と反応するような銘柄も常時置かれている。
飲み比べやペアリングで広がる酒の楽しみ方
角打ちスペースでは、店内限定のお酒やおつまみが提供されており、一杯だけ試してから購入を決めるという使い方をする人も多い。価格帯も手頃で、ビール1杯から気軽に始められる。カウンターで隣り合った客同士が自然と会話を交わす光景は、立ち飲みならではの距離感だろう。テラス席では浅草の空気を感じながら飲めるため、天気のいい日は外を選ぶ客が増えるという。
定期的に開催されるイベントでは、新酒の飲み比べや、和食・台湾料理の料理人を招いたペアリング企画が組まれている。「普段は飲まない種類に手を出してみたら気に入った」という声も聞かれ、酒の守備範囲を広げるきっかけになっているようだ。亀屋酒店が目指しているのは、来るたびに新しい発見がある場所づくりで、銘柄の入れ替えやイベントの内容も毎回異なる。次に何が出てくるか分からない、という期待感が足を運ばせている。


