約六百本のシガーと二百種のワインが揃う北新地の一軒
大阪・北新地で営業するBar 髙橋は、キューバ産を軸にドミニカ産やホンジュラス産まで取り揃えた約六百本のシガーを常時ストックしている。湿度・温度を厳密にコントロールした保管環境から取り出される一本一本の状態は安定しており、三台のワインセラーで管理された約二百種類のワインとともに、選ぶ時間そのものが楽しい。初心者へのサポートも丁寧で、シガーの持ち方やカットの仕方から相談できる体制が整っている。
個人的には、シガーとワインのペアリングを店主に委ねてみるのが面白いと感じた。産地や葉の特性に合わせた組み合わせを提案してくれるため、自分では選ばない銘柄に出会う機会が生まれる。「毎回違うシガーを試すのが通う理由になっている」という声も常連の間では珍しくないようだ。煙の太さや香りの変化を追いながらグラスを傾ける、そんな時間の使い方がこの店にはよく似合う。
日本陸海軍の遺品が並ぶ店内の空気
壁面には実物の軍服や勲章が展示され、セピア調の照明のもとで年代物の調度品が静かに存在感を放つ。BGMとして低く流れる軍歌が耳に届くと、北新地のビルの一室にいることを一瞬忘れる。日本陸海軍をテーマに据えたバーは国内でもほとんど例がなく、単なるコンセプトバーという括りでは収まらない密度がある。懐古ではなく、先人への敬意を空間設計の根幹に置いている点が、訪れた人の印象に残り続ける理由だろう。
1920年代製の眼鏡をかけ、当時の制服姿で迎えてくれる店主の佇まいは、展示品と完全に地続きになっている。「店主ごと展示物のようだった」と驚く初訪問者もいるという話を聞いた。装飾と人とが同じ時代の空気をまとっているからこそ、空間全体の説得力が増しているのだと思う。写真や映像では伝わりにくい、現場に立ったときだけ感じ取れる濃度がここにはある。
書道体験と和の精神を伝える店主の姿勢
Bar 髙橋の店主は書道の心得を持ち、希望する来店客に筆と墨を使った日本文化の体験を提供している。海外からの訪問者がこの体験を通じて和の精神性に触れる場面も多く、バーという業態の枠を超えた文化交流の接点として機能してきた。「日本人で良かったと心から感じられる場所」という理念が、サービスの隅々にまで反映されている。過去と未来の両方に目を向けながら、品格ある空間を維持し続けるという意思がはっきり見える店だ。
たとえば外国人ゲストが筆を握り、店主の手本を見ながら一文字を書き上げる場面では、言葉を超えたやりとりが生まれる。墨の香りとシガーの煙が混ざる空間で交わされる会話は、観光ガイドには載らない種類の体験になる。こうした場を日常的に設けているバーは大阪市内を探しても見当たらないだろう。文化発信の拠点としての側面が、リピーターの層を広げている。
JR北新地駅徒歩約七分、深夜二時までの営業
所在地は大阪府大阪市北区曾根崎新地1丁目7−6、新日本新地ビル東館2階17号。JR東西線・北新地駅から徒歩約七分の距離にあり、仕事帰りにも立ち寄りやすい立地だ。営業時間は19時から翌2時で、ラストオーダーは翌1時30分。定休日は祝祭日に設定されている。
カウンター席が中心の店内は、大阪市中心部にありながら外の喧噪とは切り離された静けさが保たれている。「一人で来ても居心地がいい」という感想が目立つのは、カウンター越しの距離感がちょうどよいからだろう。初訪問でも常連でも同じ空気のなかで過ごせる、そういう間合いの取り方がBar 髙橋らしさを形づくっている。


